奈良県は2024年2月19日(月)、五條市上野公園総合体育館で「五條市の県有地の活用に関する地元説明会」を開催しました。説明者として山下真知事も出席して、地元住民に奈良県の方針を説明しました。
山下真知事は2024年1月24日(水)の知事定例会見で、大規模広域防災拠点に代わる案として「五條市の県有地を活用した防災機能の強化」を発表。五條市の県有地に太陽光発電施設を設置する考えを示していました。
こちらでは「五條市の県有地の活用に関する地元説明会」での山下知事の説明をまとめております。
【五條市の県有地の活用に関する地元説明会・質疑応答まとめ(1)】メガソーラー計画に地元住民から反対の声【2024年2月19日】
五條市の県有地の活用に関する地元説明会を開催
地元説明会では冒頭に山下知事が「五條市の県有地の活用について」の資料に沿った説明を行いました。
【五條市の県有地の活用に関する地元説明会・質疑応答まとめ(2)】決定前に説明に来るべき・民意はどこまで反映されるのか
山下知事「災害時は、空港よりヘリポートの方が役に立つ」
説明の冒頭、山下知事は「災害時は、空港よりヘリポートの方が役に立つ」と発言。2024年1月1日に発生した能登半島地震で「能登空港は被災、復旧は約3週間後の1月22日であった。能登空港は応急緊急消防援助隊の一部は自衛隊輸送機で遠方の小松基地から被災地に入った」と説明。
そして、「能登空港は人命救助には一切使われていない。飛行機を使った形では」と発言しました。
一方で、「救難ヘリ等の離着陸は発災翌日(1月2日)からを受け入れを開始している。したがって、災害時は空港よりヘリポートの方が役に立つというのは能登半島地震の結果からも明らか」としました。
【五條市の県有地の活用に関する地元説明会・質疑応答まとめ(3)】計画の再考・議会開会中の説明会開催への要望など
熊本県危機管理防災特別顧問の発言を引用
山下知事は奈良県議会が2月13日に開催したセミナーで「議員からの『防災拠点でどれくらいの滑走路が必要か』との議員からの質問に対し、熊本県危機管理防災特別顧問が『防災に特化した滑走路は不要である。災害時は大型ヘリコプターが重要。大型ヘリコプターが離着陸できる100m四方のヘリポートがあればよい』と答えたということ」と発言。
熊本県危機管理防災特別顧問について「陸上自衛隊レンジャー隊教官で連隊長など幅広い知識と指揮経験の持ち主。熊本地震の際は防災センターオペレーション責任者として被害を最小化した経験を持っている」と経歴を説明しました。
そして、「奈良県は防災拠点は空港としてではなく、災害時に有効に活用するため、大型ヘリポートを整備します」と説明。「南海トラフ地震の際に空港を使用するとしても伊丹空港や八尾空港がある」と他府県の空港を使用する考えを示しました。
【山下知事定例記者会見】五條市の県有地に太陽光発電施設設置の計画を発表【2024年1月24日】
山下知事「五條市の大規模広域防災拠点の整備費は巨額」
山下知事は大規模広域防災拠点の整備費について「巨額である。大規模広域防災拠点だけで約720億円。関連道路が約260億円。総事業費はなんど約1000億円で大きな県民の負担となることは明らか」と説明しました。
山下知事「大規模広域防災拠点には非常に大きな欠陥がある」
また、「大規模広域防災拠点には非常に大きな欠陥というか落とし穴がある」と発言。
具体的な欠陥内容について「2010年時点で南海トラフ地震は30年以内の地震発生確率が7割から8割あると言われている。しかし、五條市の大規模広域防災拠点はリニア中央新幹線の工事の残土を埋め立てて整備する計画である。前提となるリニアの大阪開業は早くても2037年。構想実現までの期間が長すぎて、滑走路ができる前に地震がきてしまうという致命的な欠陥を有していると、そういう計画であると私は考えている」と説明しました。
山下知事「災害時は蓄電池が役に立つ」
山下知事は能登半島地震を例に挙げ、「災害時は送電線が倒れるので蓄電池が役に立つ。避難所の電源を支えてくれるのは非常用の蓄電池。道路が寸断されていて、蓄電池を陸路で運ぶのはできない可能性がある。ヘリコプターでの輸送が重要」と説明。
奈良県の新たな計画として「蓄電池を被災地に運ぶための、大型ヘリが離着陸可能なヘリポートと、蓄電池などを備蓄するための倉庫を整備する予定」と具体案を示しました。そして「五條市の県有地から県内9ヵ所の広域防災拠点に蓄電池をヘリコプターなどで運び、9ヵ所の広域防災拠点から避難所に蓄電池を運ぶ。これによって停電が起こっても避難所ですぐに電気が使える」と説明しました。
県立橿原公苑を新たに中核的広域防災拠点に位置付け
奈良県の広域的な防災計画をより災害に対応した、災害時にすぐに運用できる体制にするために「県立橿原公苑を新たに中核的広域防災拠点に位置付ける」と説明。橿原公苑にアリーナ(屋根付きの体育館)を新設する。そこに災害時に避難所に配る物資を備蓄する。陸上競技場でヘリコプターの離発着ができる。物資はヘリコプターやトラックで県内の避難所に届ける」との計画を明かしました。
そして、「橿原市の了解が得られれば、近隣の橿原運動公園も中核的広域防災拠点に位置付ける」としました。
五條市の県有地に太陽光発電について
山下知事は太陽光発電施設の平時の利用についての説明を行いました。その中で「奈良県は太陽光発電以外の再生可能エネルギー発電設備は全国の伸び率に比べて低い」と発言。「バイオマスはほぼ同じレベル、水力発電も十津川村の長殿発電所の再稼働による増加はあるが伸びていない。風力発電はほぼゼロ。バイオマス・水力・風力も奈良県で導入量を増やすことは難しい」と説明しました。
太陽光発電施設の事故割合は0.08%
太陽光発電施設の事故割合について「令和3年度までに固定価格買い取り制度によって認定された太陽光発電施設(10kW以上)数は68万6097件ある。その中で令和3年度の太陽光発電施設(10kW以上)の事故件数は567件。約70万件の太陽光発電施設の中で事故を起こしたのは600件に過ぎない。パーセンテージになおすと0.08%にすぎない」と説明しました。
五條市への固定資産税20年間で約3億8000万円
また、山下知事は「新聞報道などでは太陽光発電は地元に何のメリットもないとの発言も紹介されていた」と発言。
太陽光発電施設を設置した場合のメリットとして「奈良県の試算では竣工の翌年から約5000万円の固定資産税が五條市に入る。以降、減価償却するので年間の固定資産税額は減るが、20年間で約3億8000万円の固定資産税が五條市に入る予定。五條市にとって何ら有益なことはないというわけではない」と利点があることを強調しました。
県の新たな計画に土地売買契約上の問題があるか
山下知事は説明会の中で「NHKの報道で阪合部地区の自治連合会長が『詐欺にあったような気持ちだ』と発言していた。それについて、奈良県の見解を述べさせていただきたい」と発言。
続けて「『買収地の用途変更が県の契約違反になるか』という問題だが、契約書の冒頭には『奈良県が施行する奈良県大規模広域防災拠点整備事業(都づくり)工事のために必要な土地について…(阪合部山林自治会)を甲とし、奈良県を乙として、下記条項により土地等の売買に関する契約を締結する』と記載されている。契約書の冒頭部分は契約の趣旨及び経緯を表したものであり、法的な拘束力はない。」と説明しました。
さらに「契約書の本文にそのような記載があれば法的な合意事項になるが、本文には奈良県が買った土地を2000m級の滑走路を伴う大規模広域防災拠点に使わないといけないということを明記した条文はない。県が違反した場合、地権者のみなさんが買い戻すとか、地権者に違約金を払わないといけないとは定められていない。買収地の用途変更では契約違反にならないと考えている」と契約違反ではないことを強調しました。
そして、「『こんなつもりで売ったんじゃない』と売買契約を取り消せるかについて、民法95条の「動機の錯誤」による取消しを主張する場合には(次の)3つの要件を全て満たす必要がある。『大規模広域防災拠点の用途でなければ売らないと県に言ったか』『一般的な取引上の社会通念に照らして、購入後の用途は重要か』『動機が契約書等に表示されているか』。今回の契約書を見てもいずれもそういった事実はないと判断した」と契約の取り消しができないと述べました。